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​靖山レポート

​現代アートとしての日本画

2019年5月15日

遠山清香

(Seizan Gallery New York・Director)

​ 11月半ば、ホイットニー美術館のウォーホル大回顧展「From A to B And Back Again」のプレビューに足を運んだ。作家本人と若手の頃から交流があり、ニューヨークのディア・ビーコン、パリのポンピドーセンターなどの個展も仕切ってきたウォーホル研究の第一人者であるドナ・デ・サルボによるキュレーションで、アメリカ国内の美術館で開催されたウォーホルの個展としては1989年以来ということで、今秋ニューヨークで最も注目を集める展示会となっている。

​ 展示の中に、アシスタントと二人でシルクスクリーン作品を制作するウォーホルを捉えたビデオがある。キャンバスをだらっと床に敷き、レジストレーション(位置合わせ)も適当にシルクスクリーンの版を乗せ、スキージでアクリル絵具を2回、3回と伸ばして・・・・・はい、出来上がり。美術館で作品価格について思いを思いを巡らすのはお行儀がよろしくないかもしれないが、「数分で作られたこの作品に、数十年後、ウン十億円の価値がつくのか・・・・・」と嘆息せずにはいられない。

​ 従来の西洋美術的技巧を捨て、ニューヨークのアートシーンに「コンセプチュアル・アート」を根付かせたのはまさにウォーホルだったのだなあと改めて感じ入ると同時に、デュシャンが火をつけ、ウォーホルが薪をくべたこのコンセプチュアル・アートは、アートを解放した魔法であると同時に「呪い」でもあったのかもしれないと思いを巡らせた。

 アートとは技術、技巧よりもコンセプトのゲームであるという考え方は、ニューヨークが牽引する現代アートにおいてとても強固にある。優美あるいは超絶技巧なだけでは不十分であり、市場において、また学術的にも認められるためには、コンセプトによる下支えが必須である。それは逆に、コンセプトがあれば技巧がなくても作品として成立いうるという、もろ刃の剣でもある。第一線で活躍している作家の作品には、たとえ素人目にはわかりづらくても長年の研鑽による技術、技巧の成果が盛り込まれているが、一方で「子供でも描けそう、作れそう」と思われる作品、実際にそうであろう作品が量産されているのも事実。

 そんなコンセプチュアル・アートの呪いとしての側面が最も顕著にあらわれたのが、数年前のニューヨークアートシーンにおける抽象画ブームだったと思う。80年代生まれの若手作家の抽象画が華々しく取り上げられ、有名コレクターが購入し、オークションで高値がついた。もちろん良い作品もあっただろうが、刷毛やスプレーでアクリル絵具を塗りたくった、似たような作品のオンパレードは「ゾンビ絵の複製」と酷評され、価格もあっという間に下落した。

 さて、そんなウォーホルの魔法か呪いか、コンセプチュアル・アートが席巻するニューヨークにおいて、2018年9月Seizan Gallery New Yorkはオープンした。ディーラーとして22年間活躍してきたオーナー、山田聖子が初めて日本国外にオープンしたギャラリーであり、こけらおとし展として「現代の日本画展」を開催、泉東臣、岩崎絵里、金澤隆、小林範之、塩崎顕、坪田純哉、安原成美と、第一線で活躍する作家7名による作品を発表した。

 小説家は処女作にその全てが詰まっていると言われるが、ギャラリーもまた、その方向性を決定づける上でグランド・オープニング展は非常に重要である。筆者は、山田並びにスタッフとの長期に及ぶ協議を経て、「現代の日本画」を前面に押し出すことに決めた。ニューヨークのアートシーンは抽象画に食傷気味であって、具象への揺り戻しがトレンドとなりつつあったのを踏まえれば、歴史と技巧に裏打ちされた現代作家による日本画は新鮮に映るだろうという確信があった。アート業界に留まらず、ニューヨークでは近年、技術、技巧、職人芸、素材へのこだわり等々が重要性を増している。歴史と技巧に裏付けされ、現代的な感覚で制作をする作家たちの作品は、ニューヨークにおいては新鮮に受け取られるであろうし、さらに、アメリカではニッチジャンルである日本画を、メインストリームの現代アートの枠組みの中で改めて紹介したいという狙いもあった。

 古典から明治時代の作家を中心として、アメリカには根強い日本画コレクションの伝統がある。伊藤若冲を「再発見」したジョー&エツコ・プライス夫妻や、ニューヨークのジョン・ウェバー氏など著名なコレクターをはじめ、現在、シカゴ美術館ではシカゴを拠点とするウェストン・コレクションの浮世絵の本画展が開催されている。これらはほんの一例だ。

 ニューヨークには、ジャパニーズ・アート・ソサエティ・イン・アメリカという、1973年から続く日本美術愛好家の団体がある。コレクター、ディーラー、キュレーター、研究者などからなるその会員数は現在500名にのぼり、トークショーや展覧会から、コレクターの自宅をめぐるツアーまで、精力的にイベントを開催している。主催者のアリソン・トールマンさんも日本美術のコレクターであり、ディーラーとして篠田桃紅、今村由男の作品等々を扱っている。

 「篠田は現代日本画の素晴らしさbをよく表している作家だと思います」と、トールマンさんは語る。「シンプルかつパーフェクト。日本画家にしか描けない『余白』、『間』がとても好きなんです。コレクターが作品を収集する理由は本当に様々。コンセプチュアル・アートなどのトレンドを追う人や、投資としてアートを買う人もニューヨークには多いですが、私はシンプルに見て、美しいと感じる作品好きですね」

 一方、千住博、安藤みやなどを取り扱うギャラリスト、サンダラム・タゴールさんは、「伝統への向き合い方」が重要だと語る。

 「作家は、生まれた国の伝統から逃れることはできません。伝統と向き合うか、背くか。いずれにしても自身が背負う文化に対峙することになります。現代日本画の伝統は素材ですよね。千住は和紙、顔料など日本画の素材を自由に扱う技術を習得しながら、ポロックやグラフィティを研究することで、より広い可能性を持つ作品に昇華させています。安藤は備前刀鍛冶の子孫として岡山県の寺で育ち、刀の素材、スチールを素材に取り入れることで、自伝的な素材を作品に反映させているわけです」

 コンセプチュアル・アートが主流のニューヨークでも、「技巧に対する深い敬意はある」と、タゴールさんは断言する。

 ニューヨークにおいては先輩にあたる二人のギャラリストに話を聞いたことで、日本画を現代アートの枠組みで改めて紹介するという筆者らの方向性にも、より広い可能性が見えてきたように思う。

 「日本画展」オープニングの翌日、「アートフォーラム」誌の編集長デイヴィッド・ヴァラスコ氏がふらりとギャラリーにやってきた。泉東臣の作品「悠刻」を熱心に観て「この作品は、印刷ではないようですが・・・・・何でしょうか?」とポツリ。

 「悠刻」は、真紅に染まった空と対照的に真っ白な森の風景を精密に描いた泉の代表作。顔料を薄く塗り重ね、緻密だがマチエールのない日本画独特の平面的な仕上がりに、絵画であることを疑ったようだ。ニューヨークで最も権威のあると言われる美術誌の編集長が戸惑いを見せたこの反応に、現代アートとして日本画を提示することの意義が垣間見えたように思う。

 技巧とコンセプトという両側面を兼ね備える現代の日本画。さらに付け加えれば、30代、40代の若さでありながら日々技術の研鑽を重ねる、職人的な、老成した作家たち。2009年に、高橋コレクションが、奈良美智、村上隆をはじめとする日本の人気現代作家について「ネオテニー(幼形成熟)」というキーワードのもとに展覧会を開いたが、筆者は、日本画家たちを、その逆、「超成熟」とでも形容したい。ニューヨークにおいて彼らの作品を現代アートとして発表していくのは実に刺激的な挑戦である。成熟した日本の作家たちと練り上げていくSeizan Gallery New Yorkの展覧会は、今後、どのようなものになっていくのか。ウォーホルがニューヨークのアートシーンにかけた「コンセプチュアル・ゲーム」という呪いを解くくらいの気概で、今後も展覧会を企画していきたいと考えている。

月刊アートコレクターズ2019年1月号No.118(発行:生活の友社)

SEIZAN Gallery New York ディレクター遠山清香の寄稿文「現代アートとしての日本画」より